4.ブラック=ショールズ・モデルによるオプション価格

 

1         原資産の価格変動とオプション価格

1)原資産価格の変動を考慮に入れる必要性

フォワードの理論価格は、原資産の現時点の価格、リスク・フリー・レート、満期までの期間がわかっていればよかった。

ð        これらの情報は現時点で入手できる。

ð        理論価格は一意に計算できる。

 

オプションの理論価格は、この3要素以外に将来の原資産の価格の変動がどうなるかを考慮に入れる必要がある。

フォワード契約:将来の特定日に約定した価格で原資産を引き渡さなくてはいけない。

オプション:将来の原資産の引渡しは、契約履行の選択権を行使した場合のみ行われる。

 

つまり、将来の原資産の価格は、

-         フォワード契約の履行には、関係がない。

-         オプションの権利行使には、重要な関係がある。

オプションの理論価格の算出には、将来の原資産価格を考慮に入れる必要があり、これは現時点では(誰も)確実には解らないので、不確実性を考慮に入れる必要がある。

 

2)株価の変動モデル

株価の変動について、幾何ブラウン運動モデルを想定する。これは、

       

もしくは、辺々をSで割った、

       

と表される。ただし、

         … 株価

         … 期待収益率

         … 株価のボラティリティ

         … 微小時間

         … ウィナー過程

である。ここでウィナー過程とは、

       

であり、

         … 標準正規確率変数

で、なら、は相関がない。が標準正規分布にしたがうので、は平均0、分散の正規分布に従う。

 

2 オプション価格の性質

(1)オプションに関する用語

原資産の時価と権利行使価格のみを比較した場合、

権利行使をすると利益がある状態:        イン・ザ・マネー(ITM

権利行使をしても利益も損失もない状態:  アット・ザ・マネー (ATM)

権利行使をすると損失が発生する状態:    アウト・オブ・ザ・マネー (OTM)

 

Sを原資産の時価(株価)、Xを権利行使価格とすると、

コールオプションの場合、

        ITM:    X < S

        ATM:    X = S

        OTM:    S < X

 

プットオプションの場合、

        ITM:    S < X

        ATM:    S = X

        OTM:    X < S

 

オプションの本源的価値(intrinsic value

        コール:        Max(S-X, 0)

        プット:        Max(X-S, 0)

 

オプションの時間的価値 (time value)

 

オプションの総価値=オプションの本源的価値+オプションの時間的価値

 

(2)オプション価格に影響を与える要因

オプションの価格水準がどうなるかは、原資産価格S、権利行使価格K、満期までの期間T、リスク・フリー・レートr、原資産価格のボラティリティ、原資産の所有によってもたらされる所得D、などの影響を受ける。

 

コール:株価の上昇、低い権利行使価格、ボラティリティの増加 ⇒ オプション価格の上昇にプラスの影響

プット:株価の下落、高い権利行使価格、ボラティリティの増加 ⇒ オプション価格の上昇にプラスの影響

 

注)フォワードの場合、ボラティリティの増加は価格に影響を与えない。買い手は価格の上昇による収益を見込むことも出来るが、下落による損失に見舞われることもあるからである。

これに対して、オプションの場合、株価の上昇(コールの場合)による利益のみ享受する一方、ダウンサイドリスクは、オプションの価格に限定されるので、ボラティリティの増加はオプションを所有することの価値を高める。

 

アメリカン: 満期までの期間が長いほうが選択肢が多く、価値が上昇する。

ヨーロピアン:満期までの期間は価格にあまり影響を与えない。

 

リスク・フリー・レート:上昇した場合、現在価値の減少と株価の上昇という相反する影響を与えると考えられる。

配当:株価の下落をもたらす。

 

(3)オプション価格の上限と下限

- 配当支払いのないヨーロピアン・オプション価格の上限と下限

満期時のペイオフ:

        コール買い:

        コール売り:

ただし、

         … 満期時点での株価

         … コールオプションの価格

         … リスク・フリー・レート

である。同様にプットの場合は、

        プット買い:

        プット売り:

ただし、

         … プットオプションの価格

である。

 

オプション価格の値の範囲を考えてみよう。       

 

(コールオプション価格の上限)

=(コールの買い手が払ってもいい最大の価格)

=(コールのペイオフを考えて、それが少なくともゼロ以下にならない価格)

       

左辺は、X0のとき最大値をとるので、

       

となり、これは現時点でも成立するので、

       

つまり、現時点の株価(原資産の時価)がコールオプションの取り得る最大値となる。

 

(プットオプション価格の上限)

=(プットの買い手が払ってもいい最大の価格)

=(プットのペイオフを考えて、それが少なくともゼロ以下にならない価格)

左辺は、S(t)0のとき最大値をとるので、

       

となり、これは現時点でも成立するので、

       

つまり、権利行使価格の現在価値がプットオプションの取り得る最大値となる。

 

(コールオプション価格の下限)

=(コールの売り手が受け取ってもいい最小の価格)

=(コールのペイオフを考えて、それが少なくともゼロ以下にならない価格)

       

X=0よりも、X>0のときのほうが、の値が小さいので、これがそのまま下限となり、これを現在に割り引いて、

       

つまり、0、もしくは現時点の株価から権利行使価格の現在価値を引いたもののうち、大きいほうがコールオプションの取り得る最小値となる。

 

(プットオプション価格の下限)

=(プットの売り手が受け取ってもいい最小の価格)

=(プットのペイオフを考えて、それが少なくともゼロ以下にならない価格)

コールの売りと同様、

       

つまり、0、もしくは権利行使価格の現在価値から現時点の株価を引いたもののうち、大きいほうがプットオプションの取り得る最小値となる。

よって、オプション価格の範囲は、

       

となる。

 

(4)プット・コール・パリティ

ヨーロピアン・オプションの場合、プットとコールの間にプット・コール・パリティが存在する。

       

ポートフォリオ1:時点0で、コールオプションを購入し、資金を運用。

ポートフォリオ2:時点0で、プットオプションを購入し、株式をで購入。

 

時点Tにて、

の場合(コール権利行使、プット権利放棄)

ポートフォリオ1:コールオプションを行使し、株式をで購入し、で売却。また運用資金はとなっている。つまり、ポートフォリオ1の価値は、

ポートフォリオ2:プットオプションを放棄し、株式をで売却。よって、ポートフォリオ2の価値は、

 

の場合(コール権利放棄、プット権利行使)

ポートフォリオ1:コールオプションを放棄する。運用資金はとなっている。よって、ポートフォリオ1の価値は、

ポートフォリオ2:プットオプションを行使し、株式をで購入してで売却する。また、同時に株式をで売却。よって、ポートフォリオ2の価値は、

 

よって、両者のポートフォリオの価値はいずれの場合も一致する。よって両者の現時点でのポートフォリオの価値も等しいと考えられるので、

       

が成立する。(同じ満期、権利行使価格なら、片方からもう片方の値が計算できる)

配当が有る場合は、

       

となる。ただし、qは連続的配当率である。

 

3 ブラック=ショールズの偏微分方程式とその解

 

(1)   伊藤のレンマとその意義

デリバティブの価格は原資産の価格に依存する。しかし、原資産の将来の価格は不確定であり、これを考えるには確率過程を想定するのが通常である。たとえば、株価は幾何ブラウン運動に従うと想定される場合が多いが、これにはウィナー過程と呼ばれる確率過程が介入している。連続変数の場合、時間の経過に伴ってある変数がどう変化するかを考察する際に、微分方程式を使用する場合が多いが、確率過程が介入していると通常使用している伝統的な微積分はそのままの形では使用できない。確率変数のディファレンシャル(など)は、確定的な変数と違って、きわめて短い時間経過()の間にも変化すると考えられ、その分散はゼロではないので2次のディファレンシャル()を無視できない可能性があるからである。

 

確率微積分において標準的な微分のチェーンルールに相当するのが、「伊藤のレンマ」である。

(伊藤のレンマ)

ある変数Sと時間tの関数G(S,t)を考え、G2階微分可能であるとする。変数Sは次の伊藤のプロセスに従うものとする。

       

ただし、はウィナー過程、a(S,t),b(S,t)はそれぞれ関数である。このときGの微分は、

となる(らしい)。これを伊藤のレンマという。

この式は、Sを株価の関数、Gをデリバティブの価格と考えた場合、株価の確率微分方程式が与えられれば、デリバティブの確率微分方程式が決定できることを意味する。

 

フォワード価格を例にとる。現時点でのフォワード価格は、

       

となるので、一般には、

       

となる。

 

いま、原資産価格が幾何ブラウン運動、

       

に従うとして、フォワード価格の全微分を求めると、偏微分がそれぞれ、

       

となることから、

       

 

となる。より、

       

 

となり、現資産価格が幾何ブラウン運動に従った場合、フォワード価格も幾何ブラウン運動に従うことがわかる。

 

(2)   ブラック=ショールズの偏微分方程式

基本的仮定:

1.株価は幾何ブラウン運動、に従い、およびは一定である。

2.株式は空売りが出来、株式はどのような単位にも分割可能である。

3.株式の配当は行われない。

4.取引費用、税金等のコストはかからない。

5.裁定の余地は存在しない。

6.株式売買は連続的に行われる。

7.リスク・フリー・レートは満期までの間、一定である。

この仮定に基づいて、ブラック=ショールズの偏微分方程式を導いてみよう。

 

コールオプション価格をfとして、株価Sと時間tの関数とする。すなわち、

とする。fを伊藤のレンマに代入する。その際、

       

とすると、

          

 

ここから確率過程である、ウィナー過程を取り除く。

1単位のコールオプションと単位の株式によって構成されるポートフォリオを考える。

       

このポートフォリオのわずかの時間経過(dt)の間の価値の変化は、

       

である。これにコールオプションの微小変化、株価のブラウン運動の式、またの関係を代入すると、

 

と変形でき、ウィナー過程を取り除くことが出来た。一方、をリスクフリーレートrdtの間運用したとすると、運用益はとなるので、

       

となる。を代入して整理すると、

       

よって、

                (ブラック=ショールズの偏微分方程式)

となる。この式を、ある境界条件(コールの場合、)のもとで解いたのがブラック=ショールズの公式と呼ばれるものである。

 

(3)   ブラック=ショールズの偏微分方程式の解

配当のないヨーロピアン・オプションに関しては、ブラック=ショールズの偏微分方程式の解が一意に定まる。

ヨーロピアン・コール・オプション価格:

       

ここで、

       

       

 

であり、は平均0、標準偏差1の標準正規分布の累積確率分布関数である。

 

ヨーロピアン・プット・オプション価格:

       

 

これらの式からわかるように、オプション価格は、現時点の株価、株式の収益率のボラティリティリスクフリーレート権利行使価格満期までの期間の5つがわかれば一意に決定する。

 

(4)   配当がある場合のヨーロピアン・オプションの価格

-         予想可能な特定の日に配当落ちがある場合

満期までの間の配当落ちの日と配当額が予想できるときは、受取予定配当額の現在価値を現在の株価から差し引いた後、配当がない場合のブラック=ショールズの公式を適用する。

 

-         連続的に配当が支払われるとみなす場合

株価で置き換えると、公式が得られる。

       

       

 

       

 

 

 

4 ボラティリティの推定

(1)   ボラティリティ推定の必要性

インプライド・ボラティリティ:現時点で成立している諸変数の値から、逆に人々が想定しているであろうボラティリティの水準を推定したもの。

(3)   過去データに基づくボラティリティの推定

(a)          標本分散に基づいて推定する方法

株価が幾何ブラウン運動に従うという標準的な想定の下では、非常に短い間の収益率は

で表せる。ウィナー過程が平均0、標準偏差の正規分布をすることから、

       

 

       

 

ところで、は正規分布に従うので、の標本分散(=平方和/(要素数−1))がわかればボラティリティが推定できる。すなわち、

       

よって、

       

実際にこの式でボラティリティを推定する場合、1/(1年間の取引日数)として計算する。

 

注)実務では、標本分散を、

             (ただし、は収益率)

として計算することが多い。(この方が楽なためだと思われる)

(b)                  指数加重移動平均法

ある期間nの収益率の平均値をゼロと想定すると、その期間の1日当たりのボラティリティは、

で計算できる。ここには、の定数である。

 

 

 

 

5.アメリカン・オプションの権利行使のタイミング

 

(1)配当のないアメリカン・コール・オプション

原資産を権利行使後も持ち続けるとしたら、満期前に権利行使をしないほうが良い

A:      満期までの途中、で権利行使

B:      満期に権利行使または権利放棄

コールオプション価格の支払いはA,Bともに同じなので比較の対象から除く。なお、Aの場合は時点ではイン・ザ・マネーであったとする。(さもなければ権利行使する意味がない)

満期時点Tで見たAのペイオフは、時点でのペイオフと株式入手後の株価の変動分によって構成される。

       

一方Bの場合、時点で権利行使価格を支払わないのでこれをリスク・フリー・レートで運用できる。これより満期時のペイオフは、

       

となる。第1項は権利行使(放棄)にともなうペイオフであり、第2項は(行使しなかったことにより手元に残った)資金の運用益である。

 

(イン・ザ・マネー)の場合

それぞれのペイオフは、

A:     

B:     

よってABのペイオフの大小関係を見ると、

         (↑この第2項の分だけBの方がAより大きい)

となり、資金の運用益の分、満期時に行使したほうが有利である。

 

(アウト・オブ・ザ・マネー)の場合

それぞれのペイオフは、

A:     

B:     

よってABのペイオフの大小関係を見ると、権利は放棄され(ペイオフは0)、またが負(損失)となることから、

   (ゼロ) (正)  (負)

となり、(資金の運用益:左辺第2項)を手に出来、また(権利行使価格を下回る株価下落の損失:右辺)を被らないため、満期時に放棄したほうが有利である。

つまり、配当のないアメリカン・コール・オプションは配当のないヨーロピアン・コール・オプションと実質的に価値は同じであり、配当のないヨーロピアン・コール・オプションと同じ方法でオプション価格を計算できる。

 

 

(2)   配当のないアメリカン・プット・オプション

コールの場合と同様、

A:      満期までの途中、で権利行使

B:      満期に権利行使または権利放棄

を考える。どの場合も原資産は所有済みとする。また、その株式の入手時点からまでの株価変動による損益は考慮に入れない。なお、Aの場合は時点ではイン・ザ・マネーであったとする。(さもなければ権利行使する意味がない)

満期時点で見たAのペイオフは、時点で得たを満期までリスク・フリー・レートで運用できる。これより満期時のペイオフは、

       

である。一方Bの場合は、満期時点に権利行使または放棄するので、

       

である。

(イン・ザ・マネー)の場合

満期時点で権利行使した場合Bと、時点で行使した場合Aとの満期時点のペイオフの差は、

       

 

        (値下がり分) (運用益)

となり、どちらが有利かは時点から満期時点までの株価の値下がり分(第1項)時点から満期までの運用益(第2項)の大小関係による。

(こんなの終わってみないとわからないんだが)

 

(アウト・オブ・ザ・マネー)の場合

満期時点で権利放棄した場合(B)と、時点で行使した場合(A)の満期時点のペイオフの差は、

       

となり、明らかに各括弧内は正であるので、合計は負となり、時点で権利行使する方が有利である。

(満期時点でアウト・オブ・ザ・マネーなんでそりゃイン・ザ・マネーのときに権利行使したほうが有利だったわけですよ。。)

さて、後にバイノミアル・モデルにてアメリカン・プット・オプションの価格を計算する際に時点での比較が重要になってくるので、それを見てみよう。

時点ではまだ権利行使をしたことによって得られた資金の運用は始まっていないので、時点で得られるAのペイオフは、

のみになる。他方、満期時点で権利行使する場合のペイオフは満期時点での価値を時点に割り引いて、

       

満期時点で権利放棄する場合は満期時点でのペイオフは0なので、時点の価値も当然0である。

よって、時点で権利行使するか否かは、時点で権利行使したときに得られるペイオフと満期時に権利行使(放棄)した場合のペイオフの時点価値を比較して判断するということになる。

 

(3)配当のあるアメリカン・コール・オプション

配当がある場合は、アメリカン・コール・オプションでも期間の途中で権利行使をしたほうが有利な場合もある。

時点で権利行使をするか否かを判断するとし、また時点で定額の配当Dが支払われるものとする。以下の2つの場合を考える。

A:      満期までの途中、で権利行使

B:      満期に権利行使または権利放棄

満期時点Tで見たAのペイオフは、時点でのペイオフと株式入手後の株価の変動分に加え、時点に受け取った配当とその運用益によって構成される。

A:     

一方Bの場合、時点で権利行使価格を支払わないのでこれをリスク・フリー・レートで運用できる。これより満期時のペイオフは、

B:     

となり、配当のない場合と同じである(配当権利確定日に株式を所有していないので配当は受け取れない)。

 

(イン・ザ・マネー)の場合

それぞれのペイオフは、

A:     

B:     

よってBAのペイオフの差をとると、

 

 (それぞれの場合の第2項により大小関係が変わる)

となり、どちらが有利かは時点から満期までの権利行使価格Xの運用益(第1項)と時点から満期時点までの配当Dの元本+運用益(第2項)の大小関係による。

(アウト・オブ・ザ・マネー)の場合

それぞれのペイオフは、

A:     

B:     

よってABのペイオフの大小関係を見ると、権利は放棄され(ペイオフは0)、またが負(損失)となることから、

 

となり、どちらが有利かは上式の正負の値による。

さて、後にバイノミアル・モデルにて配当のあるアメリカン・コール・オプションの価格を計算する際に時点での比較が重要になってくるので、それを見てみよう。

A:     

B:     

時点ではまだ配当を受け取っていないので、時点で得られるAのペイオフは取得価格と権利行使価格の差のみであり、

A:     

他方、満期時点で権利行使する場合(イン・ザ・マネー)のペイオフは満期時点での価値を時点に割り引いて、

B:     

となるが、株価が時点で配当落ちを経ることを考慮に入れると、

これより時点での株価は、

       

よって、B時点でのペイオフは、

       

となる。満期時点で権利放棄する場合(アウト・オブ・ザ・マネー)は満期時点でのペイオフは権利行使をしなかったことで、時点に手元に残った資金のリスク・フリー・レートでの運用益を時点に割り引いたもののみとなる。

B:     

よって、時点で権利行使するか否かは、時点で権利行使したときに得られるペイオフと満期時に権利行使(放棄)した場合のペイオフの時点価値を比較して判断するということになる。

 

 

 

 

5.オプションとヘッジング

デルタ:原資産価格の変動に対するオプション価格の感度

ガンマ:デルタの変動に対するオプション価格の感度

シータ:時間の経過に対するオプション価格の感度

ベガ:原資産価格のボラティリティに対するオプション価格の感度

ロー:リスク・フリー・レートの変動に対するオプション価格の感度

カッパ:権利行使価格の変動に対するオプション価格の感度(シミュレーションに使う)

デルタ:原資産価格対するオプション価格の変動率          (単位:なし)

ポートフォリオのデルタ:      (単位:数量)

:オプションの数量

:個別のオプションのデルタ

 

デルタ・ヘッジング:ポートフォリオのデルタがゼロとなるポジションを取ること

デルタ・ニュートラル:ポートフォリオのデルタがゼロとなっていること

 

例えば、価格の原資産を数量、価格のコールオプションを数量もっていたとする。(ただし、負の数量は売り(ショート)のポジションを表すものとする)

このとき、このポートフォリオの価値 (単位:金額)は、

       

となる。コールオプションのデルタがのとき、原資産の価格が動くと、コールオプションの価格は動く。

このとき、このポートフォリオの価値は、

       

よって、このポートフォリオの価値の変化分は、

       

となる。これが0となるようなを所有するとこを、デルタヘッジングといい、この状態をデルタニュートラルという。

 

例えば、コールオプションを数量だけ売っている場合、ポートフォリオをデルタニュートラルにするには、

       

            (ただし、はマイナス)

となるので、コールオプションのデルタ倍の原資産を買えばいいことがわかる。

 

同様にして、複数のオプション(コール、プット、売り、買い、デルタの違うもの)をもつポートフォリオをデルタニュートラルにするには、

       

つまり、原資産を

       

だけ持てばよいことがわかる。

 

(b)                  ヨーロピアンオプションのデルタ

i)                 配当がないヨーロピアン・コール・オプションのデルタ

 

       

 

       

 

で偏微分すると、

       

となるが、ここで右辺第2項と第3項は等しいことを以下に示す。

まず、上のの式より、

       

は明らか。よって、を示せばよい。

の式を以下の形に変形する。

       

       

それぞれの式を2乗すると、

       

 

       

 

両式の差を取ると、

       

これを整理して、

       

両辺の指数をとって整理し、標準正規分布の密度関数の関数形を考慮すると、

 

となる。よって、第2項と第3項は等しいことがいえたので、配当がないヨーロピアン・コール・オプションのデルタは、

       

となる。

 

ii)              配当がないヨーロピアン・プット・オプションのデルタ

       

 

       

 

       

 

で偏微分すると、

       

となるが、ここで右辺第1項と第3項は等しいことは先の議論と同様に示すことが出来る。

まず、上のの式より、

       

は明らか。よって、を示せばよいのだが、(標準正規分布の密度関数)は奇関数なので、

これにはを示せばよいのだが、これは配当がないヨーロピアン・コール・オプションのデルタを求める際に証明済み。

よって、第2項と第3項は等しいことがいえたので、配当がないヨーロピアン・プット・オプションのデルタは、

       

 

となる。

 

(c)                  デルタの動き

(d)                  デルタ・ヘッジングのコスト

原資産の売買とリスク・フリー・レートでの資金調達・運用を組み合わせることによりオプションをエミュレートできる。

(e)                  その他のヨーロピアン・オプションのデルタ

それぞれの場合に対するブラック=ショールズの公式を原資産の価格で偏微分すれば得られる。

 

配当が有る場合のヨーロピアン・コール・オプションのデルタ:

       

       

より

       

となるが、先の議論より右辺第2項と第3項は等しいことが言えるので、結果を得る。

 

(3)   ガンマとシータ

(a)                  デルタ・ニュートラルとガンマ

ポートフォリオのガンマ:原資産価格の変動に対するポートフォリオのデルタの変動率

       

ガンマの値が小さい⇒デルタの変化が激しくない

ポートフォリオがデルタニュートラルに調整されているとすると、ポートフォリオの価値変化はガンマを用いて、

       

証明)多変数関数のテイラーの公式より、

より、ポートフォリオの価値変化は、

ここで、であることと、より小さい項を無視すれば、

             

と近似できる。

 

(b)                  ガンマ・ニュートラルにすることの意義

ガンマ・ニュートラルにすれば、原資産価格の大きな変動に対してポートフォリオの価値を守ることが出来る。

 

(c)                  ガンマ・ニュートラルへの持っていき方

ガンマはデルタを原資産価格で偏微分したものに相当

原資産のデルタは1

原資産のガンマは0

現在デルタ・ニュートラルになっているポートフォリオのガンマをとし、取引可能なオプションのガンマをとし、このオプションをポートフォリオに加えるものとし、その数量をとする。

このポートフォリオのガンマが0になれば、すなわち、

       

となれば、このポートフォリオはガンマ・ニュートラルになったことになる。したがって、もとのポートフォリオに付け加えるべきオプションの数量は、

       

である。これは注意すべき点であるが、このを加えることで元のポートフォリオのデルタはもはや0ではなくなる。そこで元のポートフォリオを再度デルタ・ニュートラルにすべく今度は原資産を加減する。原資産のガンマは0なので、ガンマ・ニュートラルは保たれる。

 

(d)                  個別オプションのガンマ

配当がないヨーロピアン・コール・オプションのガンマは、

           

∵)

       

 

 

注)      

 

逆関数の微分公式より、

       

 

 

となる。(対数の微分は係数に影響を受けない)

 

配当がないヨーロピアン・プット・オプションのガンマも、

           

∵)

       

 

 

となる。

 

注)EXCELで標準正規分布の密度関数の値を求める場合は、NORMDIST()関数を用いる。その際に、第4の引数の関数形式にFALSEを指定すると、分布関数ではなく密度関数の値を返すことが出来る。(いうまでもなく平均には0、標準偏差には1を指定する)

 

(e)                  シータ

配当がないヨーロピアン・コール・オプションのシータは、ブラック=ショールズの公式を満期までの期間で偏微分して、

             

∵)

       

 

 

                ({}0)

 

 

 

(f)                  ベガ

配当がないヨーロピアン・コール・オプションのベガは、ブラック=ショールズの公式をボラティリティで偏微分して、

∵)

 

                ({}0)

 

(g)                  ロー

配当がないヨーロピアン・コール・オプションのローは、ブラック=ショールズの公式を安全利子率で偏微分して、

∵)

       

 

 

                ({}0)

 

 

(参考)http://www.optiontradingpedia.com/free_option_greeks.htm

 

2.ポートフォリオ・インシュアランス

(1)βが1以外の場合のヘッジング

日経225オプションの購入単位は1000枚単位。つまり日経225オプションを1単位購入すると、日経225株価指数1000単位分のオプションを購入したことになる。

例)現在の日経225株価指数が12,000円であるとき、日経225コールオプションを1単位購入するとは、時価総額12,000*1,00012,000,000円分のコールオプションを買ったということになる。

 

βとは、ポートフォリオが、ベンチマークとなる商品(例えば株価指数)に対してどれほどの変動を示すかという指標であり、感覚的にはデルタに近い。

たとえば、日経225株価指数の価格が12,000円であり手元のポートフォリオが24,000万円の価値を持つ場合、このポートフォリオのβが1であるときに、価格下落をヘッジするためにはプットオプションを、

 

        240,000,000 ÷ (12,000 × 1,000) × 1 = 20単位

 

買えばよい。βが1.2なら、

 

        240,000,000 ÷ (12,000 × 1,000) × 1.2 = 24単位

 

買えばよい。つまり、現在所有するポートフォリオの価格下落を、価格変動性がβである日経225プットオプションでヘッジする場合、日経225プットオプションの購入枚数は、

 

       

ただし、

        …ポートフォリオの現在価値

        …日経225株価指数の現在価格

 

CAPMCapital Asset Pricing Model「資本資産価格モデル」

あるポートフォリオの期待収益率、リスクフリーレート(の収益率)、マーケットの収益率の間には、ポートフォリオのマーケットに対する価格変動性をβとして、以下の関係が成立する。

       

(ポートフォリオの収益率とリスクフリーレートの収益率の差)=(マーケットの収益率とリスクフリーレートの収益率の差)のβ倍

 

この関係を使って、あるヘッジに必要とするプットオプションの権利行使価格を考えてみる。

日経225株価指数の価格が12,000円であり手元のポートフォリオが24,000万円の価値を持ち、ポートフォリオのβを2、リスクフリーレートを4%として、3ヶ月先に最低限確保したいポートフォリオの価値を22,800万円としたい場合、いくらのプットオプションを購入すればよいか。

 

        ポートフォリオの期待収益率=(228,000,000 240,000,000/ 240,000,000 = -0.05 = -5%

        リスクフリーレート4%(年率)⇒ 1%3ヶ月)

        マーケットの収益率=(3ヵ月後の日経225の価格 - 日経225の現在価格)/(日経225の現在価格)= (x 12,000) / 12,000

 

これらをCAPMの式に代入して、

        -0.05-0.01 = 2 * ((x 12,000) / 12,000 0.01)

xについて解けば、

        x = 12,000 * [ { (-0.05-0.01)/2 + 0.01 } + 1 ]

          = 11,760

これより、ポートフォリオの現在価値が22,800万円まで下落することを許容する場合、βが2である日経225株価指数の価格は11,760円まで下落することを許容できることになる。

 

これを日経225プットオプションを用いてヘッジする場合、日経225プットオプションの呼値は500円刻みなので、12,000円のプットオプションを購入すればよい。プットオプションを購入した場合、ポートフォリオの収益率はCAPMの式を変形し、

 

       

となる。プットオプションの購入枚数は、

       

        240,000,000 ÷ (12,000 × 1,000) × 2 = 40単位

 

となる。これにより、仮に日経22512,000円を下回ったとしても、ポートフォリオの収益率は

       

          = 0.01 + 2 * ( 0 0.01)

           = -0.01

となり、23760万円は保全できる。仮に行使価格が11,500円のプットオプションを購入して、日経225が権利行使価格を下回ったとすると、ポートフォリオの収益率は、

       

となるので、この場合、

       

           = 0.01 + 2 * ( -0.04167 0.01)

           = -0.09334

となり、21760万円は保全できることになる。(しかしこれだと最低限保全したい22,800万円は下回ってしまうので、11,500円のプットオプションの購入では十分ではない)

 

これらを一般化すれば以下の式にまとめられる。

        ポートフォリオの期待収益率=(ポートフォリオの保全額 – ポートフォリオの現在価値)/ ポートフォリオの現在価値

        プットオプションの権利行使価格 >= 原資産の現在価格 × 

(2)   合成オプションを使用したヘッジング

あるプットオプションのデルタがのとき、このプットオプションの数量を、原資産の数量をの分だけ有するポートフォリオを保有していたとする。

ここで、プットオプションのデルタとは、

これは、言い方を変えれば原資産の価格が1円動いたとき、プットオプションの価格は円変わるということである。

では、原資産の価格が1円変わるとき、手持ちの資産が同じ円だけ変わるようにするには、プットオプションまたは原資産をどれだけの数量所有すればよいか?

プットオプションの場合は、これは1単位のデルタそのものなので、1単位もてばよい。つまり、手持ち資産が円だけ変わるプットオプションの数量は1そのもの。

原資産の場合、原資産のデルタは1であることを踏まえると、原資産の価格が1円変わるときに手持ちの資産価値が円だけ変わるようにするには原資産をだけ所有(もしくは空売り)すればよい。

これを(プットオプションのデルタが負であることを踏まえて)一般化すると、

であり、すなわち原資産をだけ空売りすることは、プットオプションをだけ所有するのと同じだけの価格変動性を有することを意味する。

よって、プットオプションの購入によって行うポートフォリオインシュアランス(保全)は、原資産の売却によってエミュレートできる。(原資産を売却することで得られた資金はリスクフリーレートで運用する)

合成オプションを利用してのポートフォリオインシュアランスを行う場合の手順

1)ポートフォリオ価値の下落をある水準で保全するために必要なプットオプションの量、権利行使価格、デルタを求める

2)購入するプットオプション全体の絶対値のデルタに等しくなるデルタが得られるような量だけ原資産を売却する

3)原資産の売却によって得られた資金をリスクフリーレートで運用する

4)原資産価格の変動と時間の経過によってポートフォリオインシュアランスに必要なプットオプションのデルタが変わっていくので、定期的に変化したデルタに合わせて原資産の追加的売買および資金の調達・運用を行っていく

 

6.バイノミアル・モデルによるオプション価格

1.1段階のバイノミアル・モデル

(1)3つのアプローチ

配当がつかないある株式ヨーロピアンコールオプションについて

現時点の株価S:          1000

権利行使価格X:          1000

リスクフリーレートr:    8%

期間T:                  1

 

1年後の株価の状態が2つだけあると仮定する。

                        株価            オプションのペイオフ

上昇の場合:            1250          250   (権利行使)           

下落の場合:            800           0     (権利放棄)

 

 

(2)オプションのエミュレーションを用いるアプローチ

@コールオプションのペイオフと同じペイオフが得られる株式とリスクフリーレートで運用(調達)できる債券によって構成されるポートフォリオを考える

Aこのポートフォリオを現時点で構築するときにかかるコストがオプションの理論価格になるとする

Bこの構築コストとオプション価格が異なれば、裁定の機会が発生することになるので、裁定の余地のない世界では両者は一致する

 

このコールオプションと同等のペイオフを持つ合成オプションは、そのオプションの原資産の購入とその購入に要する資金のリスクフリーレートでの(一部)調達により実現できる。注1

この合成オプションを構成する株式の数量をN、リスクフリーレートでの資金調達をするための債券(つまり債券発行、額面価格は100)の数量をBとする。

 

1)       現時点で、1000円の株式をN単位購入、同時に額面100円でB単位だけ債券を発行。

 

2a) 1年後に株価が上昇した場合、この合成オプションから得られるペイオフが、コールオプションから得られるペイオフ250に等しいとすると、

        1250N - 108.33B = 250   (108.33 = 100 * exp(0.08))

 

2b) 1年後に株価が下落した場合、この合成オプションから得られるペイオフが、コールオプションから得られるペイオフ0に等しいとすると、

        800N - 108.33B = 0     

 

よって、株価がこの二通りしかない場合の株式の数量N、債券の数量Bは、この連立方程式を解いて、

        N = 0.5556

        B = 4.103

要約すると、最初の時点で株式を0.5556単位購入し、債券をリスクフリーレートで4.103単位発行(資金調達)した場合の1年後のペイオフは、株価が上昇した場合と下落した場合のいずれもこのコールオプションを購入したペイオフに等しい。

さて、遡って現時点では、この株式購入と債券発行から構成される合成オプションを構築するには一体いくらコストのがかかるのであろうか?

        (現時点でのコスト)= -1000N + 100B

                 (株式購入コスト)(債券発行による収入)

だけかかるわけで、これは先ほどの連立方程式の解を代入して、

          -1000 * 0.5556 + 100 * 4.103

        = -145.3

つまり、4.103単位の債券発行による収入では、1000円の株式を0.5556単位購入する資金は賄いきれず、追加で145.3円の資金が必要となる。

この145.3円こそ、この合成オプションを構築するのに必要なコストであり、このコストはそれと同等のペイオフを有するコールオプションの購入コストに等しいはずである。

よって、この145.3円がこのコールオプションの理論価格となる。

 

注1)       債券による資金調達を一部とするところがミソである。これを全額調達すると実はうまくいかない。というのは、債券による資金を全額調達するということは、現時点でのコストを、

1000N 100B = 0

と見積もっていることになる。実際資金を全額調達したとして、株価1250円に上昇した場合のペイオフが250円だったとすると、株式および債券の数量は、以下の連立方程式

1000N 100B = 0

        1250N - 108.33B = 250

を解いて、

        N = 1.4997

        B = 14.997

となる。こうすると確かに、株価が1250円に上昇した場合、そのペイオフは、

        1250 * 1.4997 - 108.33 * 14.997 = 250

となるのだが、株価が800円に下落した場合のペイオフは、

        800 * 1.4997 - 108.33 * 14.997 = -424.865

となって、このコールオプションをエミュレートしたことにはならない。これはつまり数学的には、未知数が2つである連立方程式に対して式を3本用意していることであり、その解は一致しない。

 

3)株式とオプションのポートフォリオを用いるアプローチ

ある適当な量の株式の所有と1つのコールオプションの売りの組み合わせがリスクフリーレートでの運用と同等となることによるアプローチ。

具体的には、N単位の株式の購入と1単位のコールオプションの組み合わせを考える。

 

2a)1年後に株価が上昇した場合の株式売却による収入と、コールオプションが行使されることによるペイオフ-250の合計が、ある金額100Bのリスクフリーレートでの1年間の運用と等しいとすると、

        1250N - 250 = 108.33B   (108.33 = 100 * exp(0.08))

 

2b)1年後に株価が下落した場合の株式売却による収入と、コールオプションが放棄されることによるペイオフ0の合計が、ある金額100Bのリスクフリーレートでの1年間の運用と等しいとすると、

        800N - 0 = 108.33B

 

これより、株価がこの二通りしかない場合の株式の数量N、ある金額100Bは、この連立方程式を解いて、

        N = 0.5556

        100B = 410.3

 

最初の時点では、購入した株式と売却したコールオプションの価値の合計は、ある金額100B=410.3円の価値に等しいはずなので、

        1000 * 0.5556 - c = 410.3

これをcについて解けば、

        c = 555.6 410.3

          = 145.3

これがコールオプションの理論価格となる。

 

21年後に株価が上昇した場合と下落した場合のポートフォリオの価値が等しいとすると、

        1250N - 250 = 800N - 0

からN=0.5556を求め、1年後のこのポートフォリオの価値は

        800 * 0.5556 = 444.48

となるので、これをリスクフリーレート8%で割り引くとポートフォリオの現在価値、

        444.48 * exp(-0.08) = 410.3

が求まり、ここから株式の現在価値1000N=555.6を引いたものが、コールオプションの現在価値(売りなのでマイナスの値)すなわち価格となると考えてもよい。

なお、このアプローチは見方が異なるだけで、数式自体は最初のものとまったく同じである。

 

4)リスク中立確立を用いるアプローチ

これまで説明してきた概念の一般化である。

ü         現時点の株価: 

ü         株価上昇のときの上昇率: 

ü         元本の増加率:                            =>    (上昇率=25%なら、元本の増加率=1.25

ü         株価下落のときの下落率: 

ü         元本の減少率:                            =>   (下落率=-20%なら、元本の減少率=0.8

ü         現時点のオプション価格: 

ü         株価上昇のときのオプションのペイオフ: 

ü         株価下落のときのオプションのペイオフ: 

ü         リスクフリーレート: 

ü         1ステップの長さ:                        (先ほどの例では、オプションの権利行使期間の長さと一致し、=1

これを図示すると、

 

ここに、である。なぜなら、リスクフリーレートよりも減少率のほうが大きければ、リスクフリーによる調達、株式への投資は無リスクでの裁定機会を与えることになり、時間が経てばこれは均衡するはずだからである。

 

先ほどの説明で、リスクフリーレートでの運用と同じ価値になるような株式N単位の買いとコールオプション1単位の売りの組み合わせをもつポートフォリオのt=1での株価上昇の場合と下落の場合の価値は等しいことを思い出すと、

       

これをNについて解くと、

       

また、t=1でのポートフォリオの価値をt=0に割り引いた価値はt=0で所有する株式N単位と1単位のコールオプションの売りの価値の合計に等しいはずなので、

       

よって、これをfについて解くと、

              

となる。ここで、

       

であることを考慮して、

       

とおくと、

       

となる。これらはそれぞれリスク中立確率とよばれ、

       

を満たす。よって、コールオプションの価格は、

               

と表現することも出来る。この式は株価が上昇した場合のペイオフと下落した場合のペイオフをそれぞれリスク中立確率で加重平均し、それをリスクフリーレートで割り引いたものが、コールオプションの価格になるということを表現している。

 

注)リスク中立確率とは、もしも株価の上昇もしくは下落がこの確率に則って起こった場合、この株価の期待値が、リスクフリー(リスク中立)の運用結果と同じになるような確率のことである。

例)現時点の株価、満期時点の株価上昇率u、下落率d、リスクフリーレートr、期間Tの場合

       

となり、株価の期待値がリスクフリーレートでの運用結果と一致することがわかる。

 

リスク中立確率は、株価の上昇もしくは下落によるペイオフが、リスクフリーとなる運用を実施した場合に、どれだけ重み付けされるべきかを表す指標と見ることも出来る。

例)u=10%, d=-5%, r=0%の場合、p1-pは、

        p   = (0% - (-5%)) / (10% - (-5%)) = 1/3

        1-p = (10% - 0%) / (10% - (-5%)) = 2/3

となり、リスク中立確率が、上昇率および下落率のリスクフリーレートからの乖離率の逆数になっていることがわかる。

 

前述の、コールオプションの価格の式において、

       

をそれぞれ状態価格という。(リスク中立確率を現在価値に割り引いたもの。便利だ。ディスカウントファクターと同類のものと思えばありがたさがわかる)

状態価格を使えば、コールオプションの価格はさらに簡便に、

       

と表現できる。以上をまとめると、1段階のバイノミアルモデルでの基本要素はそれぞれ、

                                   (コールオプション1単位の売りと組み合わせると、現時点でリスクフリーとなる株式の数量)

               (リスクフリーの資産との裁定から求めたコールオプションの理論価格)

                   (リスク中立確率)

       

                        (リスク中立確率を用いて、コールオプションの価格を表現)

                                (状態価格の定義:リスク中立確率を現在価値に割り引く)

                                (状態価格を用いて、コールオプションの価格を表現)

 

これらを先ほどの例に当てはめると、

        N = (250 0) / (1000*1.25 1000*0.8)

          = 0.5556

        p = (exp(0.08*1)-0.8)/(1.25-0.8)

          = 0.62953

        1-p = 0.37047

        qu = exp(-0.08*1) * 0.62953

          = 0.58113

        qd = exp(-0.08*1) * 0.37047

          = 0.34199

        f = 0.58113 * 250 + 0.34199 * 0

          = 145.2825

          -> 145.3

となり、コールオプションの理論価格145.3円が一般式からも容易に求められることがわかる。

 

2.多段階のバイノミアル・モデル

(1)配当のないヨーロピアン・オプション価格の計算構造

2種類の計算プロセス

@     オプションのペイオフを計算するのに必要な満期時の原資産価格を算出

A     ペイオフを状態価格(リスク中立確率×割引率)を用いて、前段階のオプションの価値を計算

 

まず多段階の中で最も単純な2段階のバイノミアル・モデルを例に取る。

a)     配当のないヨーロピアン・コール・オプションの価格

例6−1

現時点の株価S:         800(円)

権利行使価格X:         810(円)

満期までの期間T:       0.5(年)

リスクフリーレートr:   6%

株価の増加率u:         1.1

株価の減少率d:         0.9

 

計算@ ペイオフ算出(時点t=0から、t=2に向かって(緑色矢印方向)順次株価を計算し、行使価格に対してのペイオフMax(S(t=2)-X,0)を算出)

 

計算A オプション価値の計算(時点t=2の各ペイオフから1段階前のオプションの価値を状態価格を乗じ、和をとることによって、t=0まで算出(青色矢印方向))

 

よって、コールオプション価格は50.79459

 

b)     配当のないヨーロピアン・プット・オプションの価格

満期のペイオフが、Max(X-S(t=2), 0)となることを除き、ヨーロピアン・プット・オプションの場合の計算とまったく同じである。

 

計算@  6-1がプットオプションで行使価格が780円の場合

 

計算A  プットオプションの価値算出はコールオプションの場合とまったく同様

 

よって、プットオプション価格は23.07633

 

c) バイノミアル・モデルにおける株価の上昇率、下落率の算定

これまでの例では、株価の株価の上昇率および下落率は、

株価の増加率u:         1.1

株価の減少率d:         0.9

などとして、与えられたものとして扱ってきたが、現実にはこれらは所与のものではなく何らかの方法を用いて推定する必要がある。

株価の推定方法の一つとして、株価はリスク中立確率に則って上昇または下落するという前提においては、時点t+1の株価の期待値は、時点tの株価をとすると、

になるが、ここでさらに株価は対数正規過程に従うと仮定すると、時点t+1の株価の期待値(1次のモーメント)は、

       

となる。また、時点t+1の株価の二乗の期待値(2次のモーメント)は、

となるがこれはまた対数正規過程の前提から、

       

となる。これらをuについて解くと(ただし、ud=1とする)、

       

と近似できる。(ようなのだが、この証明はまたいずれ、、、)

 

(二項モデルの株価の上昇率)

http://www.stat.math.keio.ac.jp/grad/math.finance/6.10.pdf

 

これよりバイノミアルモデルでは、

       

       

として、株価の増加率、減少率を計算するのにボラティリティを用いる。

 

 

(2)   配当のないアメリカン・プット・オプションの価格の計算

配当のないアメリカン・コール・オプションは、権利行使後も株式を持ち続ける場合、満期時点で権利行使するほうが有利なのに対し、配当のないアメリカン・プット・オプションは時点で権利行使するのが有利か否かは、時点で権利行使したときに得られるペイオフと満期時に権利行使(放棄)した場合のペイオフの時点価値を比較して判断する必要がある。よって、バイノミアルモデルで配当のないアメリカン・コール・オプションの価格を計算する場合は、これら2つの価値のうち大きい方をその時点でのオプションの価値として採用し、同様の計算と判断を時点0まで繰り返して、最終的にオプションの理論価格を求めていく。具体的には、t+1時点での価値を状態価格で割り引いたものと、t時点で行使した場合のペイオフのうち大きい方を採用し、それを時点0まで繰り返す。

 

(3)   配当があるアメリカン・オプションの価格の計算

配当のパターン

a)     連続配当

b)     特定時点で株価の一定割合の配当

c)     特定時点で株価の一定金額の配当

 

a)     連続配当

リスク中立な世界での株価の満期での期待値は、

       

となる。(フォワードとの裁定から求められる)これをpについて解くと、

       

が得られる。よって、配当がある場合のバイノミアル・モデルにおける1ステップ前のオプションの現在価値は、

               

の式に先ほど求めたpを代入すればよい。なお、

                               

として、状態価格を求め(このpは先ほど求めた配当を考慮したp)、

       

としてオプションの価値を求めるのが一般的なやり方であることに変わりはない。

 

b)     特定時点で株価の一定割合の配当

計算の単純のための想定であり、現実的ではないが、確かに簡単である。

配当があると、理論的には配当落ち(権利落ち)の時点で株価は配当分だけ下落する。

 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

小林啓孝 デリバティブとリアル・オプション      (中央経済社)

Hull Options, Futures, and Other Derivatives (Pearson Education)